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「陰茎癌」について

陰茎癌(1)

 陰茎癌は、まれな疾患でその発生頻度は20万人に1人程度です。25歳以下にはほとんど起こらず、多くは40~60歳代に発生しています。
 好発部位は亀頭と内側の包皮(包皮内版)であり、包茎との因果関係は強く、幼少期に包茎の手術を受けた人の発生率は極めて少なくなっています。また、発癌に恥垢が関係しているとも言われています。  組織学的には扁平上皮癌が最も多く、始めは亀頭・冠状溝・包皮内版に硬結や潰瘍を形成し、しだいに増大していきます。一方陰茎体部や外尿道口には通常発生しません。
 腫瘍の進展は外に向かって乳頭状に増殖するものと深部に浸透して潰瘍や硬結を形成するものがありますが、いずれにしても比較的境界明瞭な局所の浸潤性腫瘤となり、しばしば感染を伴っているのが特徴です。
 転移は血行性は少なく、多くはリンパ行性に鼠型リンパ節転移をみます。ただし、最初に鼠型リンパ節が腫脹しても炎症による反応であることのあり、十分な感染に対する治療後に精密な検査が必要です。

陰茎癌(2)

 陰茎癌の自覚症状は、陰茎の疼痛・掻痒感・出血や排尿感が多く、他覚的には局所の腫瘍・硬結・潰瘍や鼠径部リンパ節の腫大などです。 典型的なものは局所所見から容易に診断されますが、初期には硬性下疳・軟性下疳・陰部ヘルペス・コンジロームなどとの鑑別が困難なことも多く、その時は生検を行って診断を確定します。 初診時には半数以上で鼠径部リンパ節の腫大を認めますが、そのうち約50%は炎症性反応によるものです。 臨床検査に特徴的なものはありませんが、血液中の扁平上皮癌抗原(SCC抗原)が測定されます。これが上昇しているものは、腫瘍マーカーとしてその後の治療の指標となります。
 陰茎海綿体への浸透をみるために、視触診のほかに陰茎海綿体造影が行われることもあります。
 転移の状況を調べるには、超音波検査・CT・MRIやリンパ節の吸引生検が施行されます。

陰茎癌(3)

 陰茎癌の治療方法は、発生部位・分化度(悪性度)・局所浸潤の有無・所属リンパ節転移の有無・遠隔転移の有無・などによって決められます。治療法の主体は手術療法になりますが、陰茎は男性のシンボルであり、これを切断することは患者さんに精神的な大きな負担を与えます。したがって、早期の癌や若年者には放射線療法や抗癌剤による化学療法あるいは温熱療法などがまず試みられています。
 手術は、癌が包皮に限局している場合は包皮の環状切除術で十分ですが、陰茎海綿体または尿道海綿体に浸潤している場合は、陰茎切除の抹消(先の方)1/3までの腫瘍であれば部分切断が可能ですが、それを超えると全切除が必要となります。さらに進行したものでは、精巣などの陰嚢内容も取り除く全去勢術が行われることがあります。
 所属リンパ節の治療は鼠径リンパ節郭清になりますが、手術後高率で下肢のリンパ浮腫が起こります。
 また、転移のある症例には、抗癌剤の全身化学療法が必要となります。